二つの国、二つの明日―映画『トゥモロー・ワールド』と『Vフォー・ヴェンデッタ』―

トゥモロー・ワールド』を観てきました。

昨日、12月1日は映画の日だから、ということで、現在上映中の作品のなかでは一番SF・ファンタシィ寄りで派手な話っぽい、という理由で選んだのですが、これが予想外の名作でした。より派手そうな『エラゴン』が演ってればそっちを観るつもりだったので、ああ、向こうが封切り前で良かったな、と。

「トゥモロー」つながりの悲観的な未来を描いたSFということで、『デイ・アフター・トゥモロー』みたいな「B級感動大作」かと思いきや*1、「実録未来ドキュメンタリー」という感じで、何というか…非モテロリストの俺としても、二つの意味で感じ入るところがありました。

ひとつは、ヒロイックな「活動」について、もうひとつは、非モテにとっての「理想社会」についてです。

トゥモロー・ワールド』は、人類から生殖機能が失われてしまった未来社*2、そしてそのことが原因なのかどうかは明らかにはされませんでしたが、それと同時に世界の秩序も失われ、ただイギリスだけが辛うじて秩序らしい社会を保っている、という設定の作品です。
これは、、イギリスを舞台にした悲観的な未来SFという点で、非モテロ映画として名高い『Vフォー・ヴェンデッタ』と被るものがありますが、その「重さ」は、この作品の方が相当に大きいと言えるでしょう。

『V…』には、Vという絶対的ヒーロー*3がいて、彼が次々にヒロイックな「活動」を成し遂げ、社会悪を打ち倒していく、というカタルシスがありますが、この『トゥモロー…』には、そこまでスーパーなヒーローは一切おらず、その結末についても、「未来へのささやかな希望」を匂わせるだけ、というものですので、それほどのカタルシスはありません*4

この二つの作品に共通しているのは、その舞台設定と、命の軽さですが、『トゥモロー…』の方は、それでいながら、人の命に相当な重みを感じるという点において、『V…』とは趣が違います。

この二つの作品はともに、いろんな人が実にあっけなく死んでいきますので、人の命は実に軽いものなんだ、ということを嫌というほど思い知らされます。これは、ただでさえ矮小感に押し潰されそうなこの非モテの肉体と精神にとっては、それだけでも相当に堪えるものがあります。
ですが、『V…』の方には、大きな社会的悪を為した、明らかに下劣な人間が、その被害者の「復讐」により命を失う、という「物語」があるのに対し、『トゥモロー…』の方には、そういったものが一切なく、紛争やテロ、犯罪など、未来社会の「構造」により命が失われていく、という「理不尽さ」*5があります。

どちらも、かねがね俺が希求してやまない世界です…非モティズムを貫くヒーローにより、管理社会が打ち倒され、人々がそのヒーローの影響で目醒める世界と、子供が一切産まれなくなったことで、非モテに対する社会的圧力は弱まってると推測される世界。*6

だけど、現実にはVというヒーローも、打ち倒されるべき理由が誰から見ても明らかな100%の完全悪的存在もいません。
「物語」はなく、ただ「構造」があるのみなのです。

Vフォー・ヴェンデッタ』と『トゥモロー・ワールド』…そこには、二つの英国があり、二つの未来が描かれています。ともに悲観的で、それでいて、非モテ的には「どうせこのままでもロクなことがないんだから、世界も全て自分と同じようにロクでもなくなればいいのに」という希望が、理想が、妄想が実現した社会です。

俺のように非モテロリストを自称する非モテ過激派は、『V…』の格好良さに憧れ、ついつい「テロリズム」の更なる追求へと暴走しそうになってしまいがちではありますが、実際に「皆が等しく不幸になる社会」はむしろ、『トゥモロー…』で描かれている「どうしようもなさ」が支配する、絶望的なものなんですよね…。そのことを、俺たちは充分肝に銘じておかなければなりません。

原作は、『女には向かない職業』や『ラトクリフ街道の殺人』などで有名なミステリ作家、P.D.ジェイムズの『人類の子供たち』。*7

映画を観て、原作も読んでみたい、と思ったのですが、調べてみると、原作は『Vフォー・ヴェンデッタ』に近い、ヒロイックな物語のようなので、期待せずに読むことにしよう、と思ったのでした。

*1:ディザスターとディストピアという違いはありますが…。

*2:ちなみに、原因は最後まで明らかにされません。おそらく、人為的なものだとは思いますが、それらしき描写はありません。それでもその舞台装置が素晴らしいと思わせてくれるのが、SFの良いところです。原作小説ではそのあたりがどうなっているのか気になります。

*3:ダークヒーローではありますが…。

*4:各所で話題になっている通り、その映像は凄まじいものがあります…衝撃のあまり「あわわわ…」と指をくわえてしまうことが何回もありました。

*5:「非物語性」といっても良いでしょう。この点こそ、「実録未来ドキュメンタリー」だと俺が感じた理由です。

*6:そういう描写ありませんでしたが、飽くまでも個人的推測として、の話として受け取って下さい。

*7:現在は、『トゥモロー・ワールド』と改題されて、ハヤカワ *ミステリ* から刊行されています…。