『童貞。をプロデュース』/松江哲明

童貞喪失ナイト」へ出向いて観てきました。
ただし、併映されたそれ以外の作品は観ず、本作と、その上映後の松江哲明監督と平沢里菜子トークショーのみ行ってきました。

本作は、1と2の二作の連作形式で、それぞれが、過去2回開催されたガンダーラ映画祭で別々に発表された、とのこと。2006年の第1回に、童貞1号こと加賀賢三氏を主人公にした「1」が、2007年の第2回には、童貞2号こと梅澤嘉朗氏を主人公にした「2」がそれぞれ公開されたそうです。

今回はそれら二作を繋ぎ合わせ、一つの作品として上映したということでした。
また、「2」については、公開時から大幅に内容を追加し、上映時間も10分程度増やしたかたちでの上映となったそうです。

それでは、以下に、あらすじと感想を書いてゆきます。

童貞。をプロデュース1

あらすじと感想

主人公は、半引きこもり状態から自転車便のライダーとして職を得、立ち直りつつある加賀賢三氏。
もともと加賀さんは、松江監督の専門学校での教え子だったそうです。

23歳の童貞だそうですが、見た感じはすらっと整っており、いわゆる「メガネ男子」風のイケメンといって差し支えのない風貌です。

彼は、友人のまさみさん(仮名*1、加賀さんをどんどん煽っていきます。
トークショーで明かされていた話によると、それらはすべて演出であり、意図的なものであったそうですが、これが「ウザい先輩」風で、いちいち気に障ります。

ドキュメントにストーリーも何もあったものではないですが、一応の流れとしては、頑なな加賀さんを煽り、まさみさん(仮名)に告白させるため、と称して、カンパニー松尾氏へ紹介し、AVの撮影現場へ連れて行くというのが見せ場にあたる。

当初は、スチール男優として写真を撮るだけのはずが、急遽(?)、実際にフェラをされてしまうことになり、嫌がる加賀さんを無理やり脱がして行為を強要する。

そのさまはまさに「レイプ」である。
嫌がりながらも、身体は反応してしまうのが男の性。何とも言えない複雑な表情をする加賀さんを見ると、言いようのない切なさを感じることはうけあい。

はっきり言ってしまうと、これは「セクハラ」であり、許されることではないと考えるが、その後の顛末を見せられると、そのような憤りはむしろ、加賀さん本人へと向かう。

童貞。をプロデュース2

あらすじと感想

「1」が都会を舞台にしていたのに大して、「2」は一転、東秩父の山奥という田舎にその舞台を移す。

主人公は、サブカル、なかでも特にB級アイドルを好み、雑誌からの切り抜きを日課とする梅澤嘉朗(24歳)。

話の流れとしては、彼がとりわけ敬愛する「島田奈美」への想いのありったけをぶつけた自主制作映画を、本人に見せることを目標に、以前告白した後輩とデートをさせたり、その他の日常生活を追ったりしていくものになる。

内容はまさに「実録!下流社会」といった様相で、まるで「闇金ウシジマくん」の実写版を見せられているような気持ちを味合わされる。

梅澤さん自身は、ごみ焼却所に勤務し、その中での楽しみが「そのごみを収集すること」という、なんとも言えないもの。
しかしながら、その部屋には、漫画やグラビアなど、さまざまなサブカルアイテムが山積し、この人がもし事件を起こしたなら、間違いなく興味本位で取り上げられそうな様相である。その部屋を、梅澤さん自身は「楽園(エデン)」と熱っぽく呼称する。

とにかくブックオフを好み、趣味がブックオフめぐり、という彼は、都会のよい所は何かと聞かれ、「ブックオフがたくさんあること」とにこやかに答える好青年。

「1」の加賀さんに比べると、確かに垢抜けない感じはある。しかしながら、それはむしろ、「東秩父の山奥」という環境が形成したものが大半だと考えた方がよい。

彼の「エデン」は、都会のサブカル者にとっては、垂涎ものであり、たとえば、高円寺や中野界隈など、それ系の人々が多く棲息する土地においてなら、ある種の「アルファ」的地位を築けるのではないかとさえ思える。

また、その風貌についても、母性本能をくすぐるとも言うことができ、実際、そのアーティスト然とした言動には、「かわいらしい」と感じる女性すらいるのではないだろうか。

どうしようもない日常を経て、最終的に、島田奈美氏をゲストに迎えての上映会*2となるのだが、そこに現れたのは果たして…。

見終わった後の、寂しさと清々しさのバランスが、感動を呼ぶ。

トークショー

作品について その1
  • この『童貞。をプロデュース』という作品は、2作別々に、それぞれが「ガンダーラ映画祭」への出展作品として制作された。
  • 当初は、「童貞」をメインに撮る予定はなく、松江監督の師匠筋にあたるカンパニー松尾氏をメインに据えたドキュメンタリーにするつもりだった。
    • しかし、実際にAVの仕事も一緒にしたことのある松尾氏に対しては、なかなかうまい距離感を演出できず、どうしようかと思っていた。
      • そんな最中に、加賀さんと出会い、彼と松尾氏とが、まさに対極にあることに気づき、その対比を撮ろうと考えた。
「2」について
  • 「1」の方法論をもっと推し進めてやりたいと考えた。
  • 「1」の上映後、主人公の加賀さんの評価が高くなり、また、告白した彼女とも上手くいっていたので、それがただの「イイ話」となり、気に食わなかった。
  • なお、「2」冒頭の加賀さんの部屋にいる女性は、仕込みである。
    • そのため、「松江:付き合ってるの?」「加賀:付き合ってませんよ!」というやりとりは、正しい。
    • 「2」は「1」のちょうど1年後にあたるが、その頃、加賀さんは「1」の最後で告白したまさみさん(仮名)と今でもラブラブであり、とっくに童貞ではなくなっている。
  • 「プロデュース」とは、「童貞を捨てさせる」ためのものではなく、「童貞を成長させる」ためのものという意味。
  • 「2」の主人公、梅澤さんは、加賀さんからの紹介。
    • まさに「童貞のことは、童貞に聞け」ということ。
  • 平沢氏「加賀君は正直ムカっとする。私は梅澤派。」
作品について その2
  • 「1」と「2」は、連続で見せたい。
    • 本当はもっと色々詰め込みたかった。
    • 素材は30時間分以上ある。
    • 「1」はそのままでいい。
    • 「2」はまだまだ尺を伸ばしたい。
      • もともと、出展作品は30分が規定だが、出展時ですでに30分をオーバーしていた。
  • 「2」の方がドキュメンタリー色が濃いのは、意図してのこと。
  • 「1」→「2」での加賀の変遷が嫌なので、間に何かインターミッションを挟もうと考えた。
  • 「1」については、各国の映画祭への出展をしたりしている。
  • 松江監督「一番童貞臭いのは、松江だった」

益田ラヂヲより質問

童貞非モテは、事実性と精神性という違いがありますが、そういった自意識の問題をどうお考えですか?」
  • ドキュメント、なかでもとりわけセルフドキュメントというのは自意識を表出させます。
  • 自意識ばかりが漏出したドキュメントというのは笑えない。
    • そこで、その自意識を客観的に撮ることで、「笑い」へと転化させていきたい。

id:TZKより質問

「「2」における梅澤さんのスクラップ収集のシーンを観て、みうらじゅん氏の「エロスクラップ」を連想したのですが…」
  • みうらじゅん氏はコメンタリーもいただいてますし、大いに影響があると思います。
  • みうらじゅん氏のほかにも、大槻ケンヂ氏など、そういったサブカル系の人々がメジャーになったことで、我々は随分やりやすくなったと思います。
  • そっち系の人たちがメジャーになり、女の子がそれを見てくれるようになったおかげで、話やすくなった。

その他のお客さんからの質問1

「どんな観客を想定していますか?特に、「2」で梅沢くんが車内で吐くシーンなどは、ドン引きする人もいると思うのですが、あのシーンで笑う人か、引く人か、どちらを想定して制作されましたか?」
  • どちらでも、何らかの反応してくれるのでお客さんだと考えています。
  • 自分の作品は、「普段映画を見ない人」にこそ見てほしい。
    • 「HERO」など、「the Movie」といった安易な映画化をされた作品を見ている人にこそ見てほしい。

その他のお客さんからの質問2

「メジャーでもOKですか?」
  • OKです。
    • 童貞。をプロデュース the Movie」(二宮和也主演)のような、安易なメジャー映画化をして欲しい。
      • そうなることで、オリジナルの価値が高まる、と考える。

その他のお客さんからの質問3

「「1」「2」主人公の本人たちは、この作品をどう考えているのでしょうか?」
  • 二人とも「作り手」なので、好意的にとらえてくれている。
    • 舞台挨拶などもしてくれる。
    • その後、梅澤さんも、加賀さんと同じく「親バレ」をしてしまい、彼自身としても変わったところがあるように思う。
      • 上映に父親が来場し、それを見付けた梅澤さんが、怒りのあまり「てめぇ、何でいるんだバカヤロー!」と持っていた傘で殴りかかる一幕も。
  • それもこれも、「遅れてきた思春期」の成せることだと思います。

その他のお客さんから、平沢氏への質問

童貞について、どう思われますか?」
  • 童貞には興味がないですね。
    • 童貞キラー」みたいな人がいますが、私にとってはむしろ「笑いの対象」だと考えていました。
    • しかしながら、梅澤さんを知ったことで、で笑えなくなった。
      • いっそ、清々しく思える。
      • このまま突っ走っていって欲しい。

*1:ただし、最後に顔と名前が公表される!)))を熱烈に好きだとのことで、彼女に告白するまでを追いかけたドキュメンタリーになっています。 とはいえ、淡々と事実を記録しただけ内容ではなく、松江監督自身が前面に出て((画面には出ませんが

*2:しかも、映画館を貸し切って!